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大阪高等裁判所 昭和39年(ラ)188号 決定

抗告人 毛呂平藏

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は次ぎのとおりである。

本件記録によれば、抗告人は奈良地方裁判所に高橋耕一を債務者として仮差押命令の申請をなし、同裁判所は、昭和三九年六月一二日、抗告人に保証金一三万円を同月一九日までに供託すべきことを命じたところ、抗告人は同月一〇日付上申書と題する書面をもつて、手許不如意につき現金一三万円の代替として、

(一)  株券名義人である抗告人の白地式裏書ある田辺製薬株式会社株券 五〇〇株

一株の払込金額五〇円、額面合計二五、〇〇〇円

一株の時価一〇一円

(二)  株券名義人毛呂幸子の白地式裏書ある松下電気産業株式会社株券 五〇〇株

一株の払込金額五〇円、額面合計二五、〇〇〇円

一株の時価一八六円

(三)  株券名義人毛呂平子の白地式裏書ある帝国人絹株式会社株券 二五〇株

一株の払込金額五〇円、額面合計一二、五〇〇円

一株の時価一四〇円

(四)  五〇株の株券名義人毛呂幸子、五〇株の株券名義人である抗告人の各白地式裏書ある三井物産株式会社株券 一〇〇株

一株の払込金額五〇円、額面合計五、〇〇〇円

一株の時価一七八円、時価

右(一)ないし(四)の株券の時価総計一九六、三〇〇円、七〇%換算金一三七、四一〇円

を担保として供託することの許可を原裁判所に求めたが、同裁判所は、同月二九日、抗告人が同月一九日までに保証金一三万円を供託しなかつたことを理由として、抗告人の仮差押命令の申請を却下したことが明らかである。

よつて按ずるに裁判所が仮差押命令の担保として債権者に保証の供託を命じた場合、債権者は債務者との間に反対の特約のない限り、現金を供託することなく裁判所が相当と認める有価証券を供託することができることは民訴法一一二条の規定するところである。そしてその有価証券も国債または公債に限ることなく、価額の安定性あり、換価の容易な株券(もつとも株券は無記名式のものか、あるいは債権者名義であつて債権者の白地式裏書あるか、白地式の譲渡証書が添付されていることが必要である。)も包含され、また保証決定中に予め供託すべき株券の種類と数量が指定されていない場合には、同法一一六条を類推して、債権者は株券の種類と数量を明示し、これを供託すべきことの許可を裁判所に求めることができるけれども、この申立を却下した裁判に対しては不服申立を許されないものと解するのが相当である。

原審は抗告人の許可申請に対しこれを明示的に却下する裁判はしていないけれども、抗告人が供託の許可を求める株券のうち前記(一)及び(四)の五〇株以外のものは第三者(毛呂幸子)名義の株券であり、また現在の株式市場における株価の変動の情況に照らすと、抗告人が前記(一)ないし(四)の株券の換算率を時価の七〇%とすることも直ちに適当とは認め難い本件においては、原審は暗默のうちに抗告人の申請を却下したものと認むべく、右措置をもつて不当とすることはできない。

すると抗告人は原審が定めた期間内に原審が定めた金額の保証を供託しなかつたこととなるから、原審がこれを理由として抗告人の仮差押の申請を却下したのは正当であり、原審が抗告人の許可申請を認容しなかつたことを理由として本件仮差押の申請を却下したことを攻撃する抗告人の抗告は理由がない。

よつて民訴法八九条に従い主文のとおり決定する。

(裁判官 岩口守夫 長瀬清澄 岡部重信)

別紙

抗告の趣旨

一、奈良地方裁判所昭和三九年(ヨ)第四八号不動産仮差押命令申請事件の同庁昭和三九年六月二十九日付同事件の申請を却下した決定は取消す

二、前記事件に付仮差押に対する保証金拾参万円に相当する有価証券株券の担保として供託することを許可する

との御裁判を求める

抗告の理由

一、本件につき仮差押命令申請人は同庁昭和三九年六月十二日保証金拾参万円又は之に相当する有価証券の保証として供託すべき旨の意思表示を同庁係書記官佐貫俊弘殿より命ぜられたので之より先同年六月拾日付上申書を以つて有価証券株券の明細書を記載してその時価合計金拾九万六千参百円也七〇%換算金拾参万七千四百拾円に相当する株券の提出をなしこれを保証供託することの許可を申出たのであるが奈良地方裁判所は第一市場上場の一流株券たりとも保証としての供託は大阪地方裁判所に於いてもこれが許可をしていない旨の理由を以つて供託拒告の旨同書記官より前田治一郎判事殿の御見解の意向を通告(口頭)されたので申請人は同年六月拾四日付前田判事殿宛上申書を提出し現に大阪地方裁判所に於いて申請人は仮差押事件十数件に於いて多額の株券を保証として供託中であり神戸地方裁判所に於いても同庁昭和三七年(ヨ)第七三九号仮処分命令の保証として田辺製薬株式会社株券参千株を申請人三菱油脂工業株式会社より供託中である旨詳細に事件番号を記載し歎願する旨の上申書を提出したが再び許可なき旨の口頭にて書記官より通告を受けたので申請人は係り前田判事殿と直接面会の上詳細具陳した処よく考慮の上佐貫書記官より回答の旨言明されたので再度上申書を以つて同年六月二十一日付歎願書を提出中の処同年七月三日送達された決定書により保証金納入なきにより却下するとの決定を受けた次第であります申請人は保証供託を株券に於いて供託なす旨の申出は同年六月十日以后同年六月二十九日に至る間旬日の如く奈良地方裁判所に出頭して居り保証を実行しなかつた事実なきことは添附の書類で明白であり真実は現金保証供託かこれに相当する株券の保証供託を許可するかの件で行詰りの結果前記決定をなされたものであるからこれが決定の取消を求める

二、次に法規に於いて仮差押保全の保証金は現金又は有価証券が保証金に相当するものを供託することを規定されてあり全国裁判官合同会議保証部会に於いて株券の時価の五割以上八割の割合を以つて保証となす旨の申合事項あり東京地裁を初め各地裁は何等の支障なく七割又は八割換算で供託許可されている現状であるそれは時勢の進化に従ひ国民の六十%が日本国家主要産業の主力をなす資金を国民大衆が株券により払込み今日の日本国家の主要産業を進展せしめて居り今日の株券は一般現金化し即日裏書により時価により売買受授され何等の支障なき次第であり之等が無効化するときは日本国家が共にその産業の崩壊の時であります

三、申請人が八ケ年有余毎日の如く大阪地裁及奈良地裁及神戸地裁に通勤し過去五十年来の輸出入業を廃止して全財産壱億円以上を豊島慶輔(目下大阪裁判所刑事三部十五億円余の欺収被疑者)浜側仁政同松之助及安部良広等に僅か弐ケ月間に詐取されこれを取返さんと唯一の裁判所を信頼し漸く本年二月末一部約一千万円安部関係のみ和解となつたが期日壱円も支払せず目下競売中でありこれ等に現金を要し友人親類、知人会社より金員の貸付を願ふ場合現金は目下国家的に金つまりで不可株券なら貸して上げる旨申されたのである。それが真意は現金ならば法務局の利子は年〇、〇〇二歩であり株券なれば一割五分以上の利子が手許に入りこの貴重な日本復興の産業資金を供託で犬死させては国家として大損害であるから大いに裁判所も頭を切換え国家国民の為法の運用を近代化させないと公序良俗に反し社会秩序に反する結果となり権利の乱用となる既に世論に於いて裁判所のルールは近代より百年遅れて居り現在の社会状勢に合置せず壱ケ月五歩又は壱割の一般利息ある現状に於いて申請人の如く八年も裁判をゆつくりやられては例え全面勝訴となつても利子にも足らず訴訟放棄する方が費用もかゝらずかへつて国民は即決なき限り不利益極まるとの世論は衆知の次第である元々国民一般の為に立法された法規の為に国民自ら自滅する在主権が国民にあるのか裁判官独自の主断にあるのが不明である

又前田判事殿の御配慮も尤と思ひますが現在に於いて保証金に相当する株券を保証供託を許可すべきで将来の高値安値を配慮さる事は厳に禁止されている裁判上の予測に基く主観であり日本国家か滅亡する事もあり得る(現に昭和二十年大戦后はどうなるか不明であつた)又明白裁判所が廃止され一般国民自ら陪審制度により国民の中からその事件解明の専門家により判決を下す制度になる模様であるがこれも予測であり現在のその時の時価により保証を決定さるることは決して裁判官の違法処置ではない拒否するのが国民の権利を奪ふ違法処分である又債務者供託を受ける者も株券の場合三割以上の保証の増額であり(事実は保証損害の時は債権者は必ず現金に転換する)高くなるとも安くなるともそれは裁判所の関知する処でない又株券供託者はせめて回収まで一割五分の利子か収入助かります かゝる誠に合理的な株券保証を拒否する独り奈良地裁の決定を将来国民の大分か裁判所で株券保証供託を拒否さるゝ違法を裁判所の為にも許されない

申請人は各裁判所に感謝して居り各裁判官も出来得る限りの御援助を賜つて居るので本件で全国各裁判所に於いて堂々株券を保証とする様申出で恩返しをしたい

右理由により裁判所法規運用に付き趣旨通り判決願ひます

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